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で、こころの傷のいえていない人、内面に問題をかかえている人、負い目や罪の意識を抱いている人は、他の人のこころを支えるような仕事には向いてない、というわけです。
僕自身がこのホスピスのボランティアになるにも、「テスト」がありました。
ボランティアの希望を申し出たのですが、担当スタッフは、「そんなこと心配しないで、暇なときにいっでも遊びにいらっしゃい」と、はじめは、いわばていよく断られました。それでもホスピスの雰囲気がとても気に入っていましたので、お言葉に甘え、授業のない毎週水曜日の午後になると遊びに行っていました。
3週間目にそのスタッフに呼ばれ、ボランティアをする気があるか、と誘いを受けました。あとになって聞いてみると、じつは、その間、こちらを自由に泳がせて、僕の行動パターンや性格までよく知ろうとしたのだそうです。そのうえで、いつの時間どんな仕事を任せるのが無理がなく、お互いにもっとも有効なはたらきの機会になるか、という設定をしてくれたのでした。その結果、僕に与えられた仕事は、アート・プログラムの一環として、日本の書道を教えることでした。
これには、当の僕自身が驚いてしまいましたが、いざ、いわれた通り努力してみると、これが意外に受けて、ある老婦人は、「まさかわたしの生涯で日本の筆を使って字を書くなんて思いもしなかった。ああ、今日、生きててよかった、人生で初めての経験ができるなんて」とまでいってくれました。僕にとっても、それまで自分で気づかなかった自分の発見であり、自分の内なる日本の再発見でもありました。

 

 

 

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